『蒼穹』

〜一騎〜

 

***

 

唐突に、なんの前触れもなく。

 

「―――お前に蒼穹が見えないのは哀しい」

「彼の―――最後の思考だ―――彼は僕の存在をずっとかばい続けてくれた」

「ありがとう、一騎。島を――――僕が還る場所を守ってくれて」

 

そんな言葉と共に還って来た総士は、以前のままでいて―――、少しだけ変わっていた。

 

 

 

***

 

振り返ることなくアルヴィスに入っていく総士の背中を見送りながら、ぽつりと。

「皆城君、変わったよね?」
「え?―――あ…うん……」

どこか、漠然とそう思っていたけれど、遠見にそう指摘されて、やっぱりそうなのかな、と納得する。
還って来てお互いに話し合うのもそこそこに、総士は大人たちに連れて行かれた。

仕方のないことだと、思う。
あの状況では何も判らない。
人型をしたフェストゥム―――来須操が存在したくらいなのだ。形が判っている総士と同じフェストゥムが生み出されたとしてもおかしくない。
そして、あの人類軍の無人船に残されていた―――託されていたデータを本当に総士が作ったのだとしたら、その意図はどこにあるのか。
判らないことだらけだ。
でも、そんなことは全て別のこととして。

アレは総士だ。
器だけ、とかじゃなくて、アレは総士だ。
何故だか判らないけれど、俺には確信できた。

「じゃあ、ねぇ、一騎君」
「―――?何?」
「一騎君も、変わらなくちゃ」

俺が…変わる?
何を、どんな風に?

「そうだね…まずは、皆城君がアルヴィスから出て来た時の準備から、しよ。ね、一騎君」

変わるためのアドヴァイスは一切なく。
けれど、確かに総士を迎えるための準備は必要だろう。

そう思って、何をしようかと思っていたら、あれよあれよと『楽園』での復活祭決定となってしまった。
何故か「祭りの実行委員はやはり生徒会だろうっ」とやたら張り切ってくれたカノンと、言い出しっぺの遠見。
一発くらいは殴ってやらなきゃ気が済まない、と息巻く咲良。
それを宥める剣司。
いつか、見たような光景なのに。
そこに、衛と翔子と―――甲洋がいない。
皆で揃うとそれを思い出す。

「一騎君」

ポンッと背中を叩かれる。

「主役が来る前に、仕込みしとかないとダメだよ」
「私たちにだけ準備をさせるつもりか?」

飾り付けやらアルヴィスへの働きかけやら、二人は細々と、そして、着実に物事を進めてくれている。
パンパンと両手で自分の頬を叩く。
ボーッとしている場合じゃない。

 

 

***

 

3日後、総士は一応、条件付きで無罪放免―――となった。
なんだかショコラに吠えられて、少しだけ眉をひそめていた。
溝口さんがこれまた勝手に命名した一騎スペシャルがズラーッと並ぶ中、でんっ、と真ん中に座らされた総士は、ちょっとだけ居心地悪そうにしていたが、やがて、一騎カレーを口に運んだ。

 

***

 

大量に作った料理を皆があらかた食べ終えて、片付けを始めようかとする頃、すっかり夜は更けていた。

 

「え?アルヴィスに帰る?」
「元々、僕の部屋はアルヴィスにある。―――皆城の家にはもう帰ったこともないからな」

そういえばそうだったと思い出す。
あの日、フェストゥムが初めて襲来した日以降、総士はアルヴィスに住んでいる。
そして、唐突に哀しくなった。
あんな部屋に今から帰るんだ。必要最低限のものしかない部屋。
そう思った時、とっさに言葉が出ていた。

「送っていくっ」

あまりにも突然だったからか、少しだけ目を瞠って驚いた表情をしていた総士が何事かを云う前に、遠見が。

「そうだね、―――じゃあ、一騎君、皆城君をよろしくね」
「こちらの片付けは私たちがしておくから、気にするな」

カノンにまでそう云われて、俺と総士はポイッと『楽園』の外へ、二人揃って放り出されてしまった。

 

「一体、何なんだよ………」

楽園の入り口を振り返りながら、ぼそりと呟いた俺に総士は、入り口と俺を当分に眺めてから。

「あまり、帰りが遅くなると一騎が家に帰り着く時間も遅くなる。―――どうする、来るのか?」
「送るって云っただろっ」

少なからず意地になってそう答えた俺に、総士は少しだけ複雑な表情で「それじゃあ、急ごう」とだけ返して歩き出した。

 

***

ポツリポツリと。
離れていた時の事を話す。

主に俺が竜宮島の事を話していた。

蒼穹作戦でミョルニアがもたらした情報で、咲良が良くなってきたこと。
それに伴って剣司がホントの生徒会長らしくなってきたこととか。

「僕の側は―――ほとんど、話せるようなことはないな」

意識と呼べるようなものはあまりなかったこと。
生まれる―――現れるはずだった敵ミールのコア。それらと意思が交錯する瞬間に、あの人類軍の攻撃があった事。
それによって「痛み」以外に「苦痛」や他の概念を知ったミールが存在することを拒んだこと。
それに影響された一部のフェストゥムが段々と変質していったこと。
それらをどうにかして伝えようと、来須操に託してデータを届けたこと。

「―――それ、俺に話していいのか?」
「―――『それ』を元に戦うことになるかも知れないのは、一騎たちだろう?」

シナジェティックコードの形成が出来れば、の話だが、と、少しだけ考え込んだ総士は、ふと、足を止めた。

「? 総士?」
「いや―――シナジェティックコードの形成が出来なければ、もう、一騎たちが戦う必要はないんだな、と、思っただけだ」
「でも―――それじゃ、島が困るだろ」

そして、俺たち以外の『誰か』がやっぱり戦うことになるのは変わらない。

「――――そうだな……」

今の台詞は忘れてくれ、と、目を伏せた総士は再び歩き始めた。

規則的な耳に馴染んだ足音。それが厭わしかった時があった。
けれど、今、聞こえてくるそれに、ふいに泣き出しそうになるのは何故なんだろう。
お互いの呼吸と、足音。
偽装鏡面には雲と月が浮かぶ。
足下に長く伸びた影を見ながら歩いていた俺は、もうちょっとで総士にぶつかるところだった。

「わ……急に止まるなよ、―――あ…」
「着いたぞ、と、云おうと思っていた。少し冷えたな……」
「あ…うん―――」

いつの間にかアルヴィスに入るための入り口に到着していた。
どうしよう、まだ、何も話していない。そんな気がする。
でも、それだからと云って、何を話せばいいのかなんて、全然判らない。
逡巡していると微かに総士が息を吐くのが判った。

「少し入っていけ。温度が下がっている。今はまだお前はパイロットだ。上着を貸すからそれを着て帰れ」

それだけを云うとアルヴィスに入るためのコードを打ち込んでいく。以前と何か変わったのだろうか?
後ろ姿だけでは何も判らない。

 

***

 

とても、判りにくかった。
悪い奴じゃない。信用できる奴なのは判っている。
でも、判らない。
そして、――――判らないことを尋ねるのが、すごく怖かった。

 

***

 

部屋の前まで、二人、無言だった。
先刻のアスファルトよりアルヴィスの床は足音が響く。そして、個人に割り振られた部屋のブロックは少しだけ暗くて、響いてくる足音がなければ、前を歩く総士を幻だと思っただろう。

変わらない。
揺るぎない総士。
総士だからこそ、あの状況下で冷静にフェストゥムの思考をトレースし、その裏を読み、そして、この竜宮島にメッセンジャーを送り、最終的に敵ミールにコアを誕生させた。

ふいに思う。
総士が変わったのではなく、俺が―――受け手が変わったのではないのか。
総士は冷静さを失っていない。それを受け取る俺の方が変わってしまったのではないのか。

「―――― 一騎?」

足を止めた総士が不思議そうな顔でこちらを見てくる。

「少し待っていてくれ。何か、取ってこよう」

いつの間にかいつかの部屋の前にいた。解除コードを入力している総士の背中に、知らず、呟いていた。

「総士は―――それでいいのか?」
「?―――何か云ったか?」
「こんな部屋に一人で、―――― 一人でいていいのかっ!」

完全な八つ当たりだ。
総士が悪い訳じゃない。もう―――総士には家族がいない。
そして、アルヴィスには以前から住んでいた。
だったら、アルヴィスに帰ろうとする。
そんなこと、判っている。
それでもっ。
たった一人で、滅えるかも知れない孤独と戦って、――― 一人で戦って、やっと帰ってきて、帰ってきたここでも一人の部屋に帰るのか、と。

「一騎?」

何を云っているのか判らない、という表情をしている総士が見える。
ああ、怒らせてしまう。
頭の片隅で思ったけれど、止まらなかった。

「なんで、そんな冷静なんだよっ!俺は、―――俺は待ってたのにっ、俺だけ莫迦みたいじゃないかっ!!」
「信じて、待っていてくれたんだろう? そして、島を守ってくれた」
「総士は淋しくないのかっ!!!」

島のために―――家族を全員失って、自分すら滅えかけて。
淋しくないのか? 辛くないのか?
そう思って総士の腕を掴んだ瞬間、その手を総士に振り払われていた。

 

***

 

ハッと我に返ったように、総士が払った右手を握りしめていた。
そして、俺は腕を掴んだ瞬間に、唐突に理解出来た。
冷静なんじゃない。淋しくないわけでもない。
それでも、必要だから律しているだけなんだ。むしろ、知る事を怖がっていたのは俺の方で、触れるだけでこんなにも総士の不安が判ったのに。

「総士……」

一歩踏み出した距離は、総士が一歩後ずさったことで埋まらなかった。
総士の無表情な顔が、戸惑うように揺れている。

「急に―――触ったから驚いただけだ。すまない、一騎。待っていてくれ、今、何か取ってくる。早く帰らないと真壁司令が心配す…―――」

慌てて、少し早口でそれだけを告げて、総士が踵を返す。

「総士っ」

このまま逃がすものか、と、腕を掴めば、先程よりももっと明確な怯えと恐怖が伝わってきた。

 

『―――恐怖……?』

 

指の先から伝わってくるもの。
怖い―――恐ろしい。

 

―――自分ハイツカ一騎ヲ同化シテシマウ―――

 

もっと大量に伝わるもの。

 

―――ヒトツニ……ナリタイ―――

―――デモ、ソウジャナイ。僕ハ僕、一騎ハ一騎。ソレデイイ―――

 

相反する二つの感情と、触れた手の温かさに対する喜び。
自分以外と触れ合うことが出来る。温め合うことが出来るという、純粋な感動。

「大丈夫だ……総士…」

離されないようにしっかりと手を握って、総士を無理矢理こちらに向かせる。
戸惑った総士の視線は少し怒っているように見える。でも、これだけは伝えなくちゃならない。

「何が、だ。何も判っていないのに―――何も判っていないだろう、一騎は。僕は……」
「大丈夫だ、総士。総士は違う」

 

―――僕ハふぇすとぅむダ―――

 

かつての母さんや甲洋とはきっと違う形で、なのだろう思う。多分、今の総士はほぼフェストゥムそのものと云って過言じゃないだろう。体組織のほとんどはフェストゥムを構成するもので形成されている。皆城総士であった部分なんて、ほんの一部分に過ぎないのだろう。
それでも。

「違う、総士は違う。―――同化なんてしない」

他者に側にいて欲しいと思った場合、無意識に同化を引き起こしかねないのに。
それこそ、かつての『総士』のように。
そんな風に総士が思っているのが伝わってくる。

向かい合った総士を逃さないように腕を取り、また一歩前へ出る。

「か…ず…―――」

ほぼ同じくらいの身長差になってしまったから、向かい合えば顔はすぐそこだ。
頬を両手で挟んで、こちらを向かせると、もっと多くの意識が流れ込んでくる。

「知ってる、判ってる――――」

そう、この感覚。ずっと、この二年間、知らずに繋がっていた。

「―――覚えてる。ずっと、クロッシングしてた」

ふっと、一人でいる時。
包み込まれるような感覚。心地良い温もり。

「ずっと……総士を感じてた……」

ぱふん、と、総士の肩に頭を預けると、その時と同じように、全身が温かい温もりに包まれる。
躊躇いがちに総士の手が俺の肩に触れる。
何も変わらない、総士の手だ。

「どうなっていても、総士は総士だ。だって、総士は―――」

お互いに触れ合えることを嬉しいって思ってる。
ギリギリまで傷ついて、奴らに侵食されながら、俺がつけた傷を大事にしてくれていた。
あの時―――子供に時とは違う。
無闇に一つになりたいと求めるのではなく。
自己とは異なる存在を、愛おしむということを知っている。

「どうしようもないくらい強引で、強情なくせに―――ホントに不器用な奴だって、知ってる」

ぎゅうぅっと抱きしめていたから、総士の表情は判らなかった。
けれど、その代わり、同じくらい強い力で包み込んでくれた。

 

 

***

 

 

リアルで。
こんな近くにいたことは初めてかも知れない。
自分と相手の境界線のなくなる、クロッシングとは似て否なる感覚。
ぎこちなく触れた唇は、少しだけ乾いていて、温かい。

「―――そう……ン…」

名を呼ぼうとした時に、再び降りてきた唇にそれを塞がれて、そのまま深く接吻けられる。
最初のぎこちなさはどこへ行ったのか、と思う程に、合わせた唇からもれる吐息はあつい。
確かめるように身体をなぞる総士の手。
かくん…と崩れそうになった膝を支えていた総士に、身体を押されるようにベッドの上に倒された。
時折、掠める耳裏や脇腹に、段々と思考が纏まらなくなってくる。

「―――ャ…っっ、そう…っ……」

首筋を這う唇にゾクリとした感触がして、知らず声が裏返った、こんなみっともない声は俺の声じゃない。でも、俺の困惑を知ってか知らずか、総士は一向に止まる気配もない。

「一騎は、温かいな……」

胸元に降りた総士が呟く。
そのかそけき吐息が表面を滑って、思わず声を上げそうになる。

「―――そんっ…な、トコで、……しゃべ…る…な…っっ」

ぎゅうぅっと両手でシーツを握りしめる。そうしていないと、総士を押し返してしまいそうだ。
触れられた箇所が、温かいを通り越して、熱い。
スルリ……と、手が足へと滑った途端、反射的に身体が跳ねる。

「―――?一騎?」

浮かんでしまった涙を払おうとして首を振ったら、総士が不思議そうに見つめてきた。
けれど、今の俺にはそんなことに構っている余裕は欠片もなかった。
足に手を滑らせたまま、身体が触れ合った状態で、どこもかしこも熱いまま。
何でだか、身体が揺れるのを止められない。
膝を立てている右足がガクガクと震える。

「…そう…し……―――おかし…っ…こんな……」

だって、総士はいつもの通りだ。表情だって変わってない。
自分だけがこんなおかしい。自分で自分が制御出来ない。
でも、それが理解出来たのもそこまでだった。

「…ン――――ッッ……ンーッ……イヤ…ッ…だ…―――総士、ヤメッ……ッ……」

突然、唇を塞がれたかと思うと、呼吸を奪う程深く合わされ、そのまま、中心を握りこまれた。

「ンーッ!!」
「少しだけ我慢してくれ」
「ヤ…ダ…ッ―――そ…っっ」

他人にソコを触られていると思うだけで羞恥が先に立つ。そんなことお構いなしに総士の手はソレを嬲るのをやめず、自分でするのとは全く違う刺激に、あっという間にソレは達してしまった。

「ッ―――――アァ…ッ……ン……ッッ」

否応なく、ヒクヒクと身体が跳ねる。余分に力の入っていた身体はそれだけで力をなくしていた。
ビクビクと痙攣する身体。
嫌だと云ったのに、何の躊躇もなく俺をイかせた総士は、涼しい表情で俺を見下ろしていた。

「大丈夫か、一騎?」
「―――――ッ!!!」

これが大丈夫に見えるか、この莫迦野郎っ!!

呼吸もままならなくて、涙でぐしゃぐしゃで、ぐったりして全身から力が抜けきってるっていうのにっ!!
大丈夫なわけないだろうっ!!!!!
憤りもこめて、精一杯睨んでやったのに、総士は少し困ったような表情をして、頬に手を滑らせてきた。

「すまない、一騎。―――ありがとう……」

真正面から見下ろして、全身で一度、俺をゆったりと抱きしめる。
少しだけ早い鼓動。
それが俺のものなのか、総士のものなのかは判らなかったけれど、包まれる感覚はとても心地良い。

「ありがとう、―――ゆっくり休んでくれ」

涙でぐしゃぐしゃの俺の目元に唇を寄せて、総士が云った台詞に、微睡みかけていた俺は一気に引き戻された。

「―――なんだ…って…?」
「だから、ゆっくり休んでくれ」
「どーしてそうなるんだっ!」

いや、俺だって、そうそう判っているわけじゃない。でも、ここまでシテ―――事、ここに至って、はい、それじゃ、で、すまないだろうというのは容易に想像がつく。
というか、そっちの方がおかしいだろうっ!

「どうしてって―――嫌がっていただろう」
「それでもやめなかったのに、なんで今更っ、―――それじゃ、お疲れ様になるっ!!」
「――――疲れているだろう?……」
「そうじゃないっ、はぐらかすな、総士っ。お前はどうするんだっ!!」
「僕は…いいんだ――――」
「いいんだ、じゃないだろうっ!だったら、俺の気持ちはどーなるっ!!」

あぁ、俺はおかしい。こんな事、云うつもりじゃなかったのに。
少しだけ驚いた総士が、真面目な顔で訊いてくる。

「いいのか?」

今度は明確な意図をもって総士の手が俺の足を撫でる。上げそうになった声は出さずに済んだけれど、クッと反らしてしまったアゴに反応は現れてしまっている。
悔しくて睨んだのに、総士はその眸に愛おしそうに唇を落としてきた。

「――――もう、止めないぞ……」

絞り出すようにそう云った総士に、こっちから抱きついたのは、ほんの少しの嫌がらせになっただろうか?

 

 

***

 

「イヤ…ダッ――――イタ…ッ……イタいっ……総士、ヤ……だっっ!」

あれから。
とてつもなく恥ずかしい時間を過ごして、総士は『慣らした』つもりだったのだろうけれど、挿入の衝撃は到底そんなもので収まるはずもなかった。

ガンガン痛む頭。
キシむ身体。

「ア…ァ―――ッ…イ…ッ…ひっ……イヤァ……ッ」

総士のが挿れられた箇所が熱い。痛い。少し揺れると裂けそうな程に痛い。
全身が強張って、既に声ですらなく、音にしかなっていない。
それでも、触れ合った所から伝わるのは、確かな歓喜だ。

苦しい。
痛い。
それは確かだ。
でも、それに加えて、計り知れない『悦び』が伝わる。

「ア―――ッ…ン―――ッ……ッ……ひ…っ……そう…っ―――」

ズクッと埋まる。
ビクンッ、と仰け反った全身を貫くのは既に痛みでなく、激情だ。
ソレしか感じられない。

「―――― 一騎」

耳元で告げられた総士の声が妙に切羽詰まっていて、激情の中で俺は少し、笑っていた。

 

 

***

***

 

 

ギチッッ

歯ぎしりしても無理なものは無理だった。
起き上がることすら出来ない。
たった一回。たった一回シタだけでこの状態。

「無理はするな。一騎は体調不良だと……」
「誰に云うんだっソレッ!!!」

叫んだ途端に激痛が体中を襲う。
冗談じゃない。
こんな状態、総士に見られていることすら恥ずかしいのに、体調不良なんて云おうものなら、遠見先生が往診に来てしまう。そうなったら、―――そうなったら。

「絶対、ダメだっ!!」

再び叫んで、性懲りもなく激痛が襲う。

「だが、何かあってからでは……」
「だから、その原因作ったの、誰だよっ」
「僕と――― 一騎の共同責任だと思うが?」
「俺!?俺の所為っ!?」

あまりの云われように跳ね起きようとして、今度こそ突っ伏してしまう。

「一騎、無茶するな。第一、その原因も一騎が――――」

云いかけて、そのまま、云い淀んだ総士を下から見上げると、心なしか総士の顔が赤い。

「―――総士?」
「とにかくっ、今は寝ていろ。今日は僕がなんとかする」

くるりと踵を返し総士は部屋から出て行った。

ふわん、と、そこはかとなく漂っているのは総士の余韻だ。
戸惑いを含んだそれは、かつての総士からはあまり感じられないものだったけれど、これはとても心地良い。
そんな風に、少しずつ変わっていくのかも知れない。
俺たちも――――世界も。

 

 

 

今でも、多分、俺と総士はどこかで繋がっている。
それだけはきっと変わらない――――。

 

 

 

 

[FIN]

 

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