『運命』

 

 

***

 

閃光が走った。

「もうやめてっ! シン、アスランッ!!」

白いMSが目の前に迫る。
その声にシンの手が反応する。

『ダメだ、シン。もう……戦うなっ』

どれだけそう伝えようとしても伝えられない思いを。
彼女がそう代弁してくれていた。

どれだけの慟哭を。
どれだけの涙を。
彼は流してきただろうか。

「う゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

心が引き裂かれてしまいそうな慟哭を発しながら、彼はパルマフィオキーナをその白いMSへと向ける。
それが彼に課せられた任務であるから。

目の前の深紅のMSを葬り去ること。
いかなる万難を排しても、その任務を遂行することこそが、彼がFAITHに任命された意味。
その白いMSは単なる障害に過ぎない。
例え、ソレが「護ってやるよ」と約束した少女であっても。
ソレは軍の命令には一切干渉することが出来ない、絶対的な使命。

「こ…の、………莫迦野郎ぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

絶叫と共に深紅のMSの両脚に搭載されたビームソードが右足を破壊する。
砕け散った右足。
暴発した左手。

『……もう、戦いたくない。―――戦わせたくない……』

兄弟機に搭乗するはずだった彼に墜とされて。
理論上、フェイズシフトダウンするはずもない自分がただの灰色の鋼と化していくのが判った。
それでも、――――。

『大丈夫、シンだけは……護るから……』

失うことを怖れ、『誰か』を護ることに固執する彼は、自分が本当は護られたかったのだと、気付くこともなく。
必要とされることを求めて、ただ、がむしゃらに戦ってきた。
例え、その心が血の涙を流していたとしても。
誰も気付くことはない。

 

***

 

ZGMF-X42S
それが自分の正式な呼称だ。

ZAFTのセカンドステージ最後のシリーズとして造られた2機の兄弟機。
デスティニーとレジェンド。
搭乗するであろう人間は最初から決まっていて。
データだけは先に転送されていた。

シン・アスカ。
オーブ出身のZAFT Red。
若年ながらも星雲勲章を授与されているザフトのエースパイロットだ。
ただ、正直、最初に出会ったときの印象はあまり良くなかった。

『お子様』

というのが、最初の印象だ。
どうしてこんな奴がZAFTのエースパイロットなのか判らない。
今までZAFTで造られ、蓄積されたデータベースを全て持っている自分が云うのも何だが、こんなお子様がエースパイロットをやっているようでZAFTは大丈夫なのか、という思いすらしてくる。
自分の足下。
議長であるというギルバート・デュランダルに連れられて、与えられるであろうMSを眸をキラキラされて見上げている姿は全くの玩具を与えられた子供そのもので、隣でレジェンドを見上げているもう一人とは大きな違いだ。

隣でレジェンドを見上げているもう一人もデータ上知っている。

アスラン・ザラ。
先の大戦のエース。
しかし、ZAFTにとっては脱走者でしかない。
しかも、ZAFTの造った自分たちの先輩であるジャスティスを無断で強奪した犯人だ。

だから、自分にとって、どちらが搭乗しても最初の印象は嫌なモノでしかなかったのだ。

 

 

それが変わるのは意外に早かった。
自分の『お子様』という印象がいかに正しくなかったかという事を見せつけられた気分だった。
意外、というべきだろう。
見た目、そういう事に全く興味がないのだろうと思われていたシンが、実際は機械工学が得意であったということだ。
いや、ソフトの面ではあまり得意ではないようだが、ハードの面では整備班の人間と和気藹々と調整をこなしている。
そして、自機に対しての愛情を多く持っているということも意外な面だった。

新作MSだからということではなく、彼は自機ということを持って、常にそのMSに対して愛情を抱いて接している。
最初の整備が終わったとき。

「ま、これから大変だと思うけど、一緒に頑張ろうな、デスティニー」

ぽんぽんとコンソールを叩き、そう語りかけてきたシンを、自分は忘れないだろう。

 

 

それからことある事に、シンは自分の元を訪れた。
早く慣れたいという思いもあるのだろう。
だが、言葉が通じないのは判っているのに、語りかけてくるシンの言葉は自分の中に何かの思いを育てていった。

 

シンの家族がオーブ占領戦で失われてしまったこと。
それまでの楽しかった日々。
そして、プラントに来てからの生活。
アカデミーでの学友との莫迦騒ぎ。
赤服を与えられた時の誇らしい気持ち。
戦いを止めたいのに、その自分が更に戦いを続けている矛盾。
守りたいと思った少女が目の前で死んでしまったこと。

 

そんないろいろな思いをシンは独り言のように呟いていく。

こんな普通の少年が、何故、エースパイロットとして戦わなければならないのだろう?
何故、人殺しを続けているのだろう?

シンはお子様ではないのだ。
ただ、普通の―――どこにでもいる民間人と変わらない普通の少年であるだけ。
それが軍隊として機能しているZAFTに所属していることで、際だってしまうのだ。
自分はプラントの子供しか知らない。
だけれども、シンはオーブで生まれ育ったコーディネイターで。
そんな普通の少年が、何故??

 

この子を一刻も早く、普通の少年に戻してやりたい。

 

そんな思いが自分の中に生まれ始めていた。

 

「あとさ、アスランさん―――なんでレジェンド見に来ないのか、分かんないよな。お前がこんないい機体なんだから、絶対、レジェンドだって良い機体だよな」

隣のハンガーで少しだけ淋しそうなレジェンドを見て、『そうだな』と返す事の出来ない機械の自分がやはり少しだけ淋しかった。

 

***

 

何故、こんな日に??
何故、こんな急に出撃なんだ??

突然、港に警報が流れ、スパイ追撃の命令が下った。
外は嵐だ。
いかな万能型とはいえ、本来MSは雨天の中戦う機体ではない。
そんな日が初陣。

自分はいい。
だが、シンはどうだろう。
インパルスでは嵐の中も戦ったデータが残っている。
だから、大丈夫だろうとは思うが、実戦では初めて戦うのだ。
出撃の立ち上げをしながら、シンが同僚と交信をしている。

「なんでこんな、スパイだなんて」
『油断するな、相手はアスラン・ザラだ』
「―――――え?」
『俺もすぐに出る。奴の足を止めろ』

 

――――え?

 

シンの動揺がシートを――――コンソールを伝わって感じられた。
そうだろう。

他の皆は知らない。
シンは『アスランさん』をMSパイロットとして尊敬している。
いかにアスランさんが凄いか。
いかにシンがアカデミーの頃からずっと目標にしてきたか。
それはおそらく「誰も聞いていない」事を前提として語られるシンの素直な思い。

そして同時に判ったのは。
プラントに来てから、後ろ盾もなく、ずっと一人で頑張ってきたシンが。
誰かに必要とされなければ生きていけないのだと哀しく自分で定めてしまったシンが。
唯一、自分の拠り所としたのがアカデミーの伝説のエース、アスラン・ザラだったのだろう。

伝説のエースであるから。
そして、今、目の前にいないからこそ、シンはアスランを拠り所にしていたのではないだろうか。
それが突然、目の前に現れ、尊敬と失望の間で揺れていたのではないのか。
敵であるAAを肯定する上官など理解できるはずもない。

 

何故??
何故、今、なんだ。
何故、シンに未来(みち)を示してやらないんだ。

 

理不尽とも思える感情としか云えないモノが自分の中にわき上がる。

 

 

――――――心が欲しいのです
      私はブリキの木樵だから、心がない
      心があれば、泣いたり笑ったり出来るでしょう―――――

 

 

シンと一緒に泣いて、笑ってやる心が欲しいと――――そう、痛切に思った。

 

 

 

 

 

 

 

「あんたがっ――――!!!!!」

 

「あんたが―――――

        裏切るからぁぁっっっっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

自分を操るシンの腕。
それに正確に応える自分の腕。
けれど。
それがもたらした応えは――――閃光の中、たった一つの大切なものが消え去った瞬間。

 

砕け散ったのは――――青いMSだけではなかった。

 

 

 

 

 

***

 

ぜいぜいと荒い呼吸をするシンを自分は見ているしかできない。
アレ以降、シンの戦いは激化する一方で。
議長直属のFAITHになってもシンはちっとも楽になんてなっていなくて、段々追いつめられていった。

 

『戦わなくちゃ』

『早く―――こんな戦争を終わらせるんだ』

『そのためにはもっと多く―――もっとたくさん、敵を殺さなきゃならないんだ』

 

あんなに平和を愛していて、あんなに夢を語っていたシンの口から零れる言葉は、いつか、そんな風に変わってしまっていて。

シンはZAFTに所属していて、ZAFTの指示に従わなくちゃならなくて。
自分はシンに搭乗されて、シンの操縦に従って正確に敵を破壊する。

 

その二つの間に――――果たして違いはあるのだろうか??

 

 

青い閃光。
金色の装甲。
眩い二つの光に向かって、シンがその能力(ちから)を奮おうとした時。

「シンッ!!! やめろっ!!」

蒼穹に深紅の稲妻が走った。
信じられない現実がシンの思考能力を奪う。

『お前が奪うのかっ』

と。
そんな風に云うな。
先にシンに『奪わせた』のは誰だ。
シンがこんなにまで戦わなければならなくなったのは一体誰の責任だ。

「確かに―――俺――――ころし……たの…に」

『まだ、殺さなきゃならないのか――――』

『アスランさん』を。

 

自分の唯一の拠り所を。
たった一つ、頼りにしてきたモノを。
そんな2年間を。
全て壊さなければいけないのか、と!!!

 

「う゛ぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
「シンッ!!!」

 

がむしゃらに奮ったアロンダイトがジャスティスの推進力を奪う。
急速に墜ちていくジャスティスの推進力に、シンが更に動揺する。
咄嗟に捕まれた腕を振り払ってしまうほど――――。
そう、あれは亡霊に取り憑かれたも同じ事。
墜落するジャスティスを目の当たりにして。
そして、それを青い天使が拾っていくのを見ながら――――。
シンは涙を流していた。
そんな傷ついたシンを、抱き締めてやることも出来ない。

 

 

ロボットだから

人殺しの機械(マシン)だから

 

 

 

そして――――。
   それは、シンも同じなのだ。

 

 

 

 

***

 

レジェンドがポツリと呟いた。
『いつまで続くのだろう』
それに応えが欲しいのは自分も同じだった。

 

***

 

「う゛ぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

大切にしていたMS(インパルス)も。
大切にしていた少女(ルナマリア)も。
全て判らなくなるほどに。
壊れてしまったシンの心を。
自分はもう、二度と傷つけたくなかったから。

『戦いたくない』

深紅のMSが目の前に迫る。
けれど、自分の中ではそんなことはどうでもよくて。
後ろに守るべきメサイヤがあっても、そんなことはもうどうでもよくて。

『もう―――戦わせたくない』

それだけが願い。

神様。
どうか。

心なんていらない。
たった一つ、この願いが叶うなら。
自分に心なんて必要ない。

どうか―――――。
自分にシンを守らせて下さい。

 

この子が決して哀しまないように。
こんな戦争とは無縁の―――エースパイロットとして必要とされることのない世界へ。
そのためならば、自分には心なんて必要ありません。

それが、例え、自分が廃棄処分される瞬間であったとしても。
この子が笑って生きていける世界を――――どうか。

 

 

お願いします―――――。

 

 

 

それが―――自分の最期の意識。

 

 

 

 

 

―――――木樵よ、おまえに心など必要ないのだよ
     何故なら、お前にはもう充分に
     他人を思いやるという心があるのだから―――――

 

 

 

 

 

[FIN]2007/11/04up




 

 

 

これは書いてみたかったのです。
そして、これはあるサークル様のご本がきっかけであります。
平行世界のお話で、騎士と龍のお話なのですが、実はそれまで私はMS運命を好きではなくて(現在も一番好きなのがインパルスであることに変わりはないのですが)、その話の中でMSではない運命が出て来た時に登場シーンで泣いてしまったのです。
「ごめんね、デスティニー。お前が悪いんじゃないんだよね。お前だってきっと苦しかったよね。シンがあんだけ苦しんでたのを、多分、一番知ってるのはデスティニーだよね。ごめんね」って。
も〜、わぁわぁ号泣してしまいまして。
このお話の感想が「号泣」になってしまったくらいに(笑)。

そんで、MS運命を救済してやりたくてこねくり回して出来たのが、コレです。
結果が『OZの魔法使い』かよっていう突っ込みはなしにして下さいね。
だって、こーでも考えないと理論上、MS運命ってPSDするはずがないんですよね。

ついでにやっとタイトルロールMSのMGシリーズ発売おめでとうってことで。


 

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