FINAL PLUS α
レイを抱えている所為で、先程より少し手間取りながらコアスプレンダーへやっとの思いで辿り着く。
上からの崩壊はますます酷くなっている。
もうそろそろ、本体自体がメサイヤを支えきれなくなる。
そうなってしまえば、完全に万事休す。一時、覚醒していたレイも、また意識が混濁してしまった。
焼けている所為で出血こそしていないが、今度は火傷のために皮膚呼吸が出来ていない。
全身の70%を焼かれてしまえば人は死に至る。それはどれほど強化されたコーディネイターであろうと変わらない。
まして、その誕生から云えば、レイはコーディネイターですらないかも知れないのだ。レイの身体をコクピットのシートの背面に固定して、シンはコアスプレンダーの偏向ノズルを吹かせた。
垂直に浮かび上がったコアスプレンダーがメインスラスターを開放した時、前方の天井が崩れた。「なっ!」
慌てて制動をかけようとしても、空気の希薄になってしまったここでは制動がかからない。
突っ込んでしまえばコアスプレンダーなど一巻の終わりだろう。「くっ…そぉぉぉっっっ!!」
反転レバーと逆噴射をかけても、天井の瓦礫は目前に迫る。
ぶつかる、と、思った瞬間。
それらの瓦礫はコアスプレンダーの上空で、更に細かな破片へと粉砕され、バラバラと軽い音と衝撃を与えてコアスプレンダーに降り注いだ。
瓦礫の向こう側、狭い隙間から見えたのは……――――。「ジャスティス!――――っ、アスランッ!!」
MSがどうやってきたのだ、とか、なんで、とか、いろいろな疑問が沸く。けれど、その深紅の機体は紛れもなくジャスティスのもの。
「早くしろっ!シンッ!――――ここは崩れるぞっ!」
「判ってますっ、それくらいっ!!」そう言い返してジャスティスが覗いている隙間へと脱出する。
そして、そこにあるジャスティスの姿を見て、呆然としてしまう。「アスラッ……あんた、一体っ!!」
それは確かにジャスティスだった。
けれど、肩のシールドは外れ、左腕は取れ、無惨な状態のジャスティス。
あの格納庫で待っているだけ―――いや、脱出していればこんな姿になることはなかっただろうジャスティスの姿。「そんな事を云っている場合かっ!早くしろっ!脱出できなくなるぞっ!!」
「云われなくたって、判ってますっ!それにあんたに来いなんて一言も云ってないっ!」
「つべこべ云うなっ!」コアスプレンダーが飛ぶ後ろからジャスティスも続く。
上から落ちてくる破片をコアスプレンダーに当てないように、ジャスティスの砲で撃ち砕きながら。「―――――アスラン……」
「早く行けっ!」どうしても狭小空間ではジャスティスは大きいだけに遅れ気味になる。それは仕方のないことだと判っていても、シンは躊躇してしまう。
そんなシンの躊躇いに、何を優先すべきかまず考えろ、とアスランが叫ぶ。「あんた、なんで先に逃げなかったんだっ!」
逃げていればこんな所でこんな風に追いつめられることもなかったのに。
ジャスティスの能力を持ってすれば、あの時点からの脱出は容易だったはずだ。けれど、アスランはおそらくフリーダムだけそのまま脱出させて、自分は残ったのだろう。
そして、あまりにコアスプレンダーが遅いから、降り注ぐ瓦礫もものともせず、あの場所にやってきたのだろう。
その途中、瓦礫に当たったのか、それとも―――あまりに狭い場所に入り込めずに、自分で自分の機体を破壊したのか。
それは判らないが、脱出していればこんな状態になることはなかった。「何でって……――――っ……」
困惑したシンの叫びにアスランはなんと応えるべきか、自分でも判らずに口ごもった。
そんな理性の範疇にない行動だったことは否めない。
ちゃんとフェイズシフトダウンしない程度に、つっかえた自機の結合部分を切り飛ばした。その姿がシンの驚愕を招いたのだろう事は判ったけれど、それを圧しても助けるために行動することは自分の中では矛盾しない事で。そんな事をしている間にも照準を合わせる必要もない程、上空からの瓦礫の落下は頻繁になっている。コアスプレンダーと自機を庇うのが精一杯になりつつある。
ここにきて、多重ロックシステムがこの機に搭載されていたことを、感謝する。
破壊のためだけでなく、他人を生かすために活用できることに、感謝する。
それは、大局からすればほんの些細な事なのかも知れなかったが、その些細な―――自分とって大切なもの一つ守れないような人間に、未来を担う事など到底出来ないだろう。
上から迫るそれらに、ジャスティスの能力を最大限に生かす。「くそっ!」
コアスプレンダーに破片の一つも当てないように、まさにコンマ数ミリの単位で破壊してゆく。
「――――アスランッ!」
「余計なこと考えてるんじゃないっ!人の心配する前に、お前、云ったよな。こういう時は『俺を助けろ、この莫迦野郎っ!』って、そう云えって」そういう事だっ!と、紋切り口調で云い放つと、アスランは目の前、道を塞ぐように巨大に崩落している岩盤に照準を合わせた。
「アスランッ、これっ!」
このままではコアスプレンダーすら脱出する事はできない。
「どけっ、シン!」
火器出力を最大にする。
これを抜ければ、外に出られる。後の推進力はそんなに必要じゃない。「――――っ…当たれぇぇ……っ!」
道を塞ぐ岩盤をぶち抜いて、その勢いのままジャスティスが駆け抜ける。コアスプレンダーもそれに続き、―――その半瞬後、岩盤によって支えられていたメサイヤの空間はものの見事に崩落した。
ギリギリのエネルギーで活動していたコアスプレンダーは、メサイヤ崩壊の爆風に煽られて制御不能に陥る。「うわぁっ!―――レイッ」
固定はしているが、単座型のコアスプレンダー内部でパイロット以外の搭乗者の安定などないに等しい。
煽られて錐揉み状態となったコクピット内で、必死にシンはレイに手を伸ばした。
レイの上着を掴めた時、ガクンッと制動がかかる。「え?」
不審に思って見上げると、同じように爆風に煽られた中、ジャスティスが残った右腕と肩とを利用してコアスプレンダーを抱えているのが判った。
「大丈夫か、シン。レイは?」
若干、ノイズの入った映像と共に、穏やかな口調でアスランが問う。
そんな事、云ってる場合じゃないだろ、とか、一番大丈夫じゃないのはどう見たってあんたの機体だろ、とか。
そんな事が頭の中に渦巻くけれど、それよりも互いに無事だったとか、やっぱり本質的に変わらないのだろうアスランの不器用な優しさだとか、そういう事が無性に嬉しくて泣けてくる。「大丈夫に決まってるだろっ!誰が助けに行ったと思ってるんですかっ」
それでも、素直に嬉しいとかそんな事は云えっこなくて。
そうだったな、と。苦笑混じりに応えたアスランが詰めていた息を吐く。メサイヤは崩壊し、評議会議長は死亡し、プラント内部は多分、これからも混乱するだろうけれど。
それはおそらく地球連合にしても、オーブにしても同じ事で。
それでも、この停戦が長く―――終戦へと続く事を願って、やまない。
そのアスランの思いを踏襲するかのように、全空域に向けて、音声が流れた。「――――こちらはエターナル、ラクス・クラインです。ザフト軍現最高司令官へ申し上げます。私共はこの宙域でのこれ以上の戦闘は無意味と考え、それを望みません。どうか現時点をもっての両軍の停止に同意を願います。繰り返します。私どもは―――――」
ラクス・クラインの声が響く。
この戦いは、誰が勝ったとか負けたとか、そういう問題ではないのだ。
プラントは―――ザフトは敗戦国ではなく、オーブも地球連合も勝ったわけではない。
ただ、その勝敗を決するための戦いそのものが無意味なのだ。
違う他人を認めないという戦い自体が無意味である、と。
それに気付くことなく連綿と続く戦いの歴史。
確かに議長の提案したデスティニープランに則ってしまえば、それらの無意味な戦いはなくなるだろう。
しかし、それは同時に人類そのものの未来を閉ざしてしまうかも知れない諸刃の剣である。平等を説く世界か。
競争を生む社会か。
または―――それらとは異なる全く別の次元を抱えた未来か。
戦いの歴史とは背中合わせにある人類の未来の中で、一体、何が正しい路なのか。ナチュラルとコーディネイター。
元を同じくする二つの人類の争いは、おそらくこれからも無くなる事はないだろう。
けれど、少しずつでも歩み寄る事が出来れば。
自分とカガリのように、互いに足りない部分を補い合う事が出来れば。
ただ、憎しみ争うだけの世界ではなくなるだろうと信じて、アスランは願う。「――――アスラン……」
通信機からの困惑したようなシンの声に、アスランは自分があまりに遠く思いを馳せていた事に気付かされた。
「あ…あぁ、すまない。……ここからだと、エターナルが近いな。ルナも……多分、そこにいるはずだから、エターナルにまず行こうと思うんだが……」
このままでは、ジャスティスの航行もままならない。当然ながら、コアスプレンダーにしてももうエネルギーはない。どこかで補給しなければ、ザフトに合流もできないだろう。
「―――って、あれ、…そのフリーダムと……デスティニーだと…思うん……です…けど…」
戸惑いがちのシンの台詞がてっきりこれからの去就についての事だと思っていたアスランは、シンの示す方向に視線をやって思わず笑ってしまった。
アスランにしてみればとっくの昔にエターナルに回収されているとばかり思っていたフリーダムと……デスティニーがまだ宙域内にいるとは思っていなかったのだ。
多分、キラはアスランに云われた通りにルナマリアを回収に行ったのだろう。けれど、結局、ルナマリアとの会話が物別れに終わったかどうかして、半ば強引にどういう経緯でかは判らないけれどデスティニーごと回収する事にしたのだろう。「――――キラ……」
通信を開いて、そのまま呼びかければ弾かれたようにキラの顔が上がる。
「アスランッ、無事だったんだ?――――もー、どーにかしてよっ!これっ!」
女の子相手に半ば無理矢理強引に、というのはキラの信条にはもの凄く反する行為だろう。
本当に困っているのがよく判って、更にアスランの笑みは深くなる。「判ったよ、キラ。とりあえず、エターナルまで行こう。全ては、それからだ―――」
真っ直ぐに前を向いて。
未来へ進もうと、アスランは告げる。
それが志半ばにして費えていった数多の人々への、せめてもの手向けとなる事を信じて――――。
[To Be Continued‥]2006/11/25 up
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