鬼の話

 

 

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「そりゃまた漠然とした話ですね」

お手上げポーズの道明寺に青沼も肩を竦めて返した。

「まぁいろいろこっちも探してみるからさ、道明寺君の方でも、思い付いた事があったら声かけてくれるかな?」
「は〜い。……って、んないい加減でいいのかね?」

いい加減さかげんでは似たりよったりだが、しかし、漠然とし過ぎている感が否めない。
第一、これはロボット探しではないのか?
もっとハイテク感があっても良さそうなものだが、実際はかび臭い書物と首っ引きでは拝み屋と大差ないではないか。

 

「まぁこっちにはそっち方面を主に持って来てるんだろうけどさ」

しかし、そのマキナとやらが後何体あって、それら全てが日本にあるかどうかすら判らないではないか。
まして、関連付けて考えようとすれば、全ての伝承が怪しくなってくる。
神話・伝承など、所詮は時の権力者の都合によって書き直されてきたものだ。
それから、正しい姿を読み解くには逞しい想像力と判断が求められる。

 

******

 

「でも、ペインキラーの件ではイザナミ伝承を道明寺君が解いたおかげで、辿り着いたと聞いてますが……?」
「まぁそうなんですけど」

あれは別物ですよ、と、ソファーにねっころがって道明寺は上目使いに宗美を見上げた。

「タリスマンの時も道明寺君がいましたし、そちら方面が有力なのでは?」
「ラインバレルもヴァーダントも全く別ルートで発見されてますからね」

そう万能じゃないです、と、否定してみせる。

「あくまで考え方の一つだというだけですよ。人間の考える事ですからね」

第一、

「ペインキラーの件にしても、最初からあの黄泉津平坂にペインキラーがいたとすれば、どう見積もっても2000年は前です。だとしたら、エネルギーとか、本当に他のファクターがいなかったのかとか、いろいろと突っ込み所はある訳なんですが、逆にペインキラーが伝承を知っていて、それを利用するために転送先を決めたなんて事も考えられる訳なんですよ」
「あぁ、成程」

つまりは発想をどこまで広げられるかという話なのだろうかと、曖昧に納得する。

「先刻も云った通り、伝承なんて権力者の思い通りに書き換えられたりするわけで、それをされるのが嫌で隠語や童歌にしてしまったりという部分もあって、どこまでが信用出来るかなんて判らないんですよ」

かごめかごめって知ってます?と、問われ、童唄ですよね?と返すと、そうですよと肯定される。

「あれも今では意味が判らなくなった唄の一つです。おそらくは何らかの意味があって、それの懸詞になっていたはずなんです。でも、今ではそれを読み解こうにも基の意味が判らなくなってしまったんですよね」

カゴメは籠目だとされている。
籠目は魔よけだ。大眼という妖怪が禍をもたらさぬように、目の数が多い籠を軒先に掲げ、その禍を防いだとされる。
だがそこから先は全く不明だ。
いろいろな説があるがどれもこれも決定打に欠ける意見ばかりでどうしようもない。

「童話もそうですよ。桃太郎も一寸法師も…」
「桃太郎も…?」

 

ここはJUDA内の宗美の部屋である。
家族もいないから、部屋をわざわざ借りる必要はないここで暮らしたい、という宗美の意見で、この部屋が宛がわれている。早瀬たちに割り振られている部屋より若干広く、簡単なキッチンも付いた部屋はワンルームマンションのようだ。
持ち込んだ私物が極端に少ないせいなのか、やたら広く感じる。


そこに備え付けられたローソファーに懐いていた道明寺はよっこらしょと起き上がった。

「桃太郎の鬼退治も倭タケルの冒険も全て根は同じですよ」

つまり

「時の権力者に対してまつろわぬモノを、同じくまつろわぬモノで平定してしまおうという謀略です」

鬼退治というのはそういうものです。

「だから……」

そう云いかけて道明寺は言葉を切った。

 

「道明寺…くん…?」

だから…の続きを促すように、伺うように宗美が問い掛ける。
ふぅ…と、意識を飛ばしていたような道明寺が物憂げな瞬きと共に宗美へと向き直った。

「あぁだから鬼の概念なんて一定してないって事です」

宗美さんも鬼って云われてたでしょ?と。
日本各地に所謂『鬼』の伝承は多い。
最たる物は吉野の役行者だったり、酒天童子だったりするだろう。
得体の知れない物、日常とは掛け離れたモノ。
それらを総称して『鬼』と呼んだであろう時代。
宗美の存在もまたそれに似た物であったから。

「宗美さん、黍団子って食べたこと、あります?」

突然の話題の切り替えについてゆけず、思わず聞き返してしまう。

「き…び団子って…桃太郎の?」
「はい」
「あ…いえ、ありません。ただ猿や雉がお供になるくらいだから、美味しいのかな…とは思った事はありますが…」
「黍って雑穀なんですよ」

今、ヘルシーブームだから粟とか黍とか身体にいいって云われますけど、その昔は米が食べられないからその代用品だったんですよね。

「本当なら米の団子を持たせてやりたくても、そもそも持たせる事が出来なかったって事です。つまり、それくらい貧しい暮らしをしていた…強いられていたって事ですよ」

そして

「その黍団子 雑穀の団子にすら付いていかざるを得ない位に彼等も困窮してたってことです」

その彼等をたきつけ、まつろわぬ、意に添わぬ者達を討伐させたのだ。
ほんの少しの報償と身分の保障を餌にして。

「もしかしたら、桃太郎自体が彼等にとっての報酬の一部だったかも知れませんけど」
「??……」
「一晩、3人位ならお相手したかも知れないでしょ?」

お相手??と首を傾げると、意味深な道明寺の笑みにぶつかる。
その笑みがとある状況と一致して、途端に中身を理解する。

「なっ!!」
「まぁこれは俺の勝手な想像って事で」

にこにこ。
だが、このにこにこがくせ者なのは当の昔に判ってしまったことで。

 

「で、寝物語の俺の代償は勿論いただけるんですよね、宗美さん」

迷いなく差し出された腕に、困ったような笑みを返し、それでも肩を竦めながらも否とは云わない人であると。

確信犯の道明寺は勝利の凱歌を高らかに宣言するのだ。

 

 

「鬼も神も英雄も…一皮剥けば同じ欲望に堕ちたイキモノですよ」

と。

 

 

*****

 

うーん、何が書きたかったやら。
とりあえず、鬼の話だったはず。

 

 

 

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