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やっぱり総士も男だし、なんだか手慣れてたし、もしかしたら、あーゆーのがいいのかな??
あーゆーの、と思った瞬間、先日見たばかりの無修正AVを思い出して、ボンッと真っ赤になってしまう。
早瀬もシンも、相手がそーゆー事してくれたら、なんか嬉しいかもーみたいだったけど、自分がいざ「じゃあ出来るか」になったら、無理だ、と即答してしまう。
第一、ガラじゃないし、そんなマネをして色っぽいかと問われれば、多分、田んぼのかかしだろうと思う。
総士に呆れられて終わりのような気がする。
あの時、マジマジとは見なかったけれど、足を開き豊満な胸を揺らし、相手を誘う仕草を自分に置き換えて―――ダメに決まっている。
そんな事を悶々と考えていた一騎は、肝心の相方が部屋に帰っているのにも気づいていなかった。
「――― 一騎、大丈夫か?」
ふいに延ばされた手が一騎の前髪を掬い上げ、額に当たる。
「………っ!!」
言葉にならず跳ねのいた一騎に、総士はフラットな表情のまま
「何かあったのか、一騎」
と、冷静に問いかけてきた。
ブンブンと首を振り、跳ね退いた一騎を訝しんだのか、総士はさらに顔をみつめてきた。
「ここは島ではない。遠見先生もいないのだから、体調が優れないなら早目に申告することだ」
「……あ…うん」
いや、そうじゃなくて、云うのも恥ずかしい妄想してました、とはとてもじゃないが云えない。
総士には……。
どんよりと黙り込んでしまった一騎に、総士はまた一つ溜め息をつく。
「――― 一騎」
「あ…ごめん、ホントになんでもない。ちょっとぼんやりしてただ…」
だけなんだ、と、続く予定の言葉は総士に正面から見つめられて、ヒクッと止まった。
「目を見て話せ。それとも僕には云えないことか」
「―――そ…」
云えないわけじゃなくて、恥ずかしい…浅ましいだけだ。
ただ、どうすれば総士を誘えるか、などと考えていたのだから。
「判った」
すまなかった、プライベートに踏み込んだようだ、とそう言い置いて、何事もなかったかのように総士は自分のデスクへと歩み去ってゆく。
そうじゃない、総士は悪くない。でも、云えない。
沈み込む一騎は総士がジッとこちらを見ていた事に気付いていなかった。
夕食を食堂に食べに行き、シンや早瀬と話していてもどこかぎこちないのは見てとれた。
このままでは際限なく負のスパイラルに入ることは判っていたから、総士は少々手荒に問題解決を図ることにした。
***
「わー、待てっ!待て、タンマーッ!!」
「では、教えて貰おうか」
昼下がりの放課後、総士に呼ばれてひょこひょこついて行った早瀬は、お定まりの体育館裏で冷や汗を流していた。
怖い、マジで怖い。
無表情なのが更に怖い。
ちなみに、と。
「この3日間で、僕がいないときほぼ一緒にいたのが、早瀬とシンなのは矢島から聞いて知っている」
「じゃあ、シンに聞けよーっ」
「補習だと云ってレイが連れて行った。学業は大事だな。となれば―――僕が知りたい事は早瀬が知っているな」
さて、教えて貰おうか…。
正面から壁に押さえ付けられ、なんとゆーか明らかに身の危険を感じる。あらゆる意味で。
「わーっ!レイの卑怯者ーっ!」
助けるならこっちも助けていけー。
早瀬の叫びはそのままフェイドアウトしていった。
***
その頃、寮の食堂では、一騎が総士を探していた。
「へ?総士?」
「うん、まだ帰ってないんだけど…知ってるかなって…」
剣司も知らないのか…。
ほーと息を吐く。
なんとゆーか、自分がくだらないことに思い悩んだ事で総士には不快な思いをさせてしまったらしい。
だが、今日に限って帰って来ない。
「あれ、早瀬は?」
「シン」
「帰っていないのか?」
揃って帰って来たシンとレイが、一人でいる一騎を見つけて声をかけてきた。
パタパタと寄ってきて、紙コップに入ったスポーツドリンクを一気飲みしたシンは一騎の横の椅子に腰掛けた。
「てっきり一騎と一緒だと…」
「……総士は?帰っているのか?」
一騎の隣を見ながら、もう一人、いてもおかしくない人物の所在をレイが尋ねる。
「―――総士?帰ってない…」
どうしてそこでレイが総士を尋ねるのかが判らない。判らないなりに、何か不安になる。
「―――来い、一騎。手遅れになる前に」
「手遅……何?レイッ」
「話は後だ」
放置した俺にも一応責任がある。
「探すぞ」
踵を返したレイを追い掛けて、一騎は走りはじめた。
*
だが、走り出たレイと一騎は寮の門を出た時点で止まってしまった。
街灯がぼんやりと早瀬と連れ立って歩く総士を浮かび上がらせていたからだ。
「早瀬…」
無事だったのか、じゃああれだけ焦ったレイは一体なんだったんだと隣を見ると、隣にいるレイは明らかに安堵していた。
「ったく…友達甲斐のない奴だよなー、お前はーっ」
「何の事だ」
早瀬がレイに愚痴ると、レイは涼しい顔で応じた。
それよりも、と、総士に顔を向ける。
「問題は解決したのか」
「…解決はしていない。だが、大まかな道筋は判った」
「そうか。お前に何かあるとギルの経歴に傷がつく。少なくとも何か事を起こすなら、学園を卒業してからにしてくれ」
え、そこ?心配なのはそこなのか??
本気で身の危険を感じていた早瀬がツッコミかける。
「学園が召還した特待生が犯罪者になると、理事の責任問題に発展する」
待てー、俺は心配じゃないのかーっ。
だったら、シンだけじゃなく俺も助けとけーっ、という早瀬の叫びは完全にスルーだ。
「あ…の、何?何で総士と犯罪者が関係あるんだよ。単に早瀬と用事があっただけだろ」
「―――あ…まぁ、用事ね…」
まさか総士に締め上げられてました…とは、一騎には云えず、モゴモゴと早瀬は隣の総士を見た。
元はといえば、総士と一騎のすれ違いが問題なのだから、原因が判った以上、そっちで解決して欲しい。というか、なんで俺だけ巻き込まれてんだろー、と何やら物悲しくなってくる。
「―――全く…お前ならそれくらいは応対出来て当然だと思っていた俺の買い被りか?」
「―――へ?」
「シンでは総士に対応できない。だが、早瀬、お前はそもそもこういった問題解決が専門ではないのか?」
だったら総士への応対くらい出来るとふんだのだがな。
買い被りなら仕方ない…次からはそのように対応し、元担任への報告書にもそのように記載しよう、と云われ「わー待ってレイ。それは勘弁してくれー」と慌てて拝み倒す。
何が起きて、自分の知らない所で密かに解決してしまったのか。
だが、何か判らないが、とてもおかしな気持ちがする。
自分の知らない総士。早瀬と何かを解決して、自分には判らないようにしようとしてること…。
なんだろう…凄く…嫌な気分…。
むかむかする。吐き気に似た気分。
「――― 一騎」
耳に総士の声が届く。
嫌な気分は続いていた。
「何…?」
「今日、道明寺の家に行ってきた」
それがどうしたんだよ、と云いかけて、一騎が止まった。
まさか―――。
「先日、お前が見ただろうものを見てきた」
サーッと血の気が引く。
レイの問題は解決したのかも知れないが、こっちの問題は解決していなかったのだ。
*
「いろいろあるだろうが、寮の食堂が閉まる。夕飯の後にしろ」
そうレイに云われて、そうだな、と返した総士を見て更に血が下がる。
どう思ったのだろう。
寮に向かう皆を見ている自分自身の足が動かない。
「……あれ?一騎?―――おい、待てよ、総士っ!!一騎がっ!」
慌てた早瀬の声が聞こえる。
大丈夫、なんともない。
そう返したつもりだった。
目の前が暗いのも……きっと、夜だからだ…。
***
周囲がざわついていた。
なんだろう?
知ってる声、あぁ、シンと早瀬だ。
返しているのはレイ。
薄く眸を開けると、真っ先に気付いたのはシンだった。
「大丈夫か、一騎っ」
「―――何が?」
「何がって……外で倒れたって」
あれ?
なんで?
確かに俺は外にいて…総士が早瀬と帰って来て……。
そこまで思い出して、あぁと納得した。
総士に軽蔑されたのが怖くて、足がすくんで動けなくなったんだ。
そして…―――。
「一騎…」
声が―――。
聞きたくて、聞きたくない声が。
その声に否定されるのが怖くて――――。
「食堂に無理を云って食事を粥にしてもらった。レンジを使う許可は貰っている。食べられるようなら、温めてくるが」
淡々とした物言いが今はありがたい。
「あ…じゃあ…お粥だけ…」
「温めてこよう」
「お前はここにいろ、総士。それくらいは俺がしてくる」
立ち上がりかけた総士を制してレイが立ち上がる。
そして、なぜか他の二人を連れて行ってしまった。
なんで?
沈黙が流れる。
何を思っているのだろう?
少し窺うように視線を上げると、総士がこちらを見ていた。
「何故だ?」
ぽつりと総士に呟かれ、唇が震えた。
「僕には判らない…」
「……」
判らないだろうと思う。
当たり前だ。あんなもの、総士は見なくていい。
「一騎、お前は僕に……」
「別になんでもないだろ。俺が単にボーッとしてただけだろ。理由も何もないじゃないか」
「ならば何故、目を逸らす。僕が不審を抱くのもそれが原因だと何故判らないっ」
「そんなの判らないっ!もう放っておいてくれっ」
「一騎っ!」
「まだモメているのか、二人とも」
粥を載せたお盆を手に、レイは呆れた…という声を出した。
「解決策が見つかったのではなかったのか、総士」
「………」
処置なしか、と、深く溜め息をつく。
「俺はどちらでも構わない。だが、それによって周囲にあたえる影響が変化するならそれ相応の対処をする必要が出る。お前にはそれが判っているはずだな、総士」
解決することによって出るメリットとデメリットをよく考えろ。
それだけを言い置いてレイはパタンと扉を閉めて出ていく。
「あぁ食べ終えたら器は洗って返せ」
扉越し、それだけを付け加えるのを忘れない。
外には早瀬とシンがいたのだろうが、おそらくレイに連れて行かれたのだろう。
静まり返った空間が訪れる。
「……ホントは…」
「なんだ?」
ポツンと一騎が呟く。
「ホントは…軽蔑してるんだろ…」
「―――何故だ?」
判らないと、総士が返す。それを聞いて弾かれたように顔をあげた一騎は顔を真っ赤にしていた。
「何故って…見たんだろっ、アレをっ」
「―――あぁ見た。それがどうかしたのか?」
どうかって…そーゆー問題じゃ…。
と、云いかけて、また頭から血が下がる思いがした。
あの程度、なんとも思わないのか?それともアレを見た事自体が問題だから内容は二の次なのか。
「―――人間ならば普通の事だろう。僕には判らないが…」
「…え?」
「あぁいう映像を見る事で将来的に困らないように学習するのは思春期の男子の成長過程において必要なものだと、僕は理解している。それが僕にとって有効かどうかはまた別の問題だ」
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「ホンットにっ!総士とAVなんか見るもんじゃないぞ」
シンとレイの部屋に入り込んで、早瀬がぶつくさと愚痴る。
「―――AV…」
そんなものを見てきたのか…と、云わんばかりのレイの視線が冷たい。
「―――そーは云うけどな、一騎の挙動不審はアレ見てからなんだから、原因を教えろって云われたら、アレ見せるしかねーじゃん」
「…そんな原因だったのか…」
心配するんじゃなかった。
ある意味、完全な意味での巻き込まれ被害者であるレイが深々と溜め息をつく。
だが、仕方ない。
解決しておかない事には、危険人物と化しそうな奴がいるからには。
「AV見ながら…アレは必要なのか…とか、隣で冷静に分析されてみろ、一回っ!見てられる気分じゃなくなるからっ!」
場合が場合なので、立ち会い頼んだ道明寺が苦笑混じりに説明していた。
「あれは凄いと思ったね」
あの状態で説明出来る事に感心したよ、俺は。
「で、そういう個人的な感想はともかく。解決はつきそうなのか?」
レイにとって大切なのは、解決出来るかどうかであって、過程は正直、どうでもいいのだ。
「大丈夫じゃね?」
「本当か?」
「後は本人たちの誤解が問題だろ」
そこまで責任持てねーよ、と匙を投げた早瀬に、レイは「無責任な」と眉をひそめた。が、その通りなのも事実だ。
「――― 一騎と総士…揉めてるのか?」
のほほんとしたシンがいまさらのよーに問う。
「もめてはいないが、すれ違ってはいるな」
「ふぅん…」
なんだか大変なんだな、一騎が好きだーって云っちゃえばいいだけじゃん。
ある意味、一番の解決策を告げたシンだが、今、この場で採用は出来ないな、とレイが再びの溜め息をつく。
勿論、最終手段のひとつとしては採用するかも知れないが。
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しばらくあぐあぐしていた一騎だったが、総士の言葉にふと止まった。
あれ…?
「…あ…の、総士…」
「なんだ?」
「アレ見た感想が…それ?なのか?」
「そうだが。何か不都合があるのか?」
第一、生殖行為とは何かを考えれば、生命はそれがないと発生しないわけだから、良い悪いはともかく、犯罪行為を伴わなければ問題視されるものではないだろう。
「まさか、アレを見て後ろめたくて僕と話をしなかったのか、一騎」
「まさかってゆーことないだろっ!こっちは悩んでたのにっ」
まさかアレごときじゃダメだとは思わなかったけど。
とうてい無理だと判っただけでも良かった事にしよう。
アレ以上の誘い方なんか俺に出来る訳がない。
「全く…早瀬が云っていた内容でなくて良かった」
「??早瀬?何?」
「あのAVと同じ事を一騎が望んでいるとかどうとか云っていたから、何を馬鹿なと云っておいた」
とうてい僕には無理だからな、と。
あっさりと言い放つ総士にあぁやっぱりと思う。
早瀬の奴、中途半端に云いやがって、総士があれじゃ満足しないって判ったなら云わなきゃいいじゃないか。
「一騎に望まれても、アレは無理だ」
「―――うん、判ってる」
だからもうソレには触れないで欲しい。
「――― 一騎がああいう誘い方をして欲しいとしたら、どうしようかと思っていた」
―――――。
「―――――へ?」
「早瀬もとんだ勘違いだな」
爽やかに、晴々とした表情を向けられて、一騎は固まってしまった。
「今―――なんて?」
「ああいう誘い方は僕には無理だ。一騎がそれを望んでいなくて良かった」
あっさりと繰り返された言葉に一騎がプチッとキレた。
「なんでそーなるんだっ!!逆だろ、ふつーっ!」
いままでのポジション考えてみろよ、なんでそーゆー悩み方になるんだ。
しかも俺が悩んで考えて落ち込んでた内容をいとも簡単に5秒で云いやがって、人をなんだと思ってるんだっ!!
「……一騎…」
ぜいぜいと肩で息をしていた一騎は、総士のとまどった呼びかけでハッと我に返った。
―――今、自分は何を口走った?
取り返しのつかないことを云わなかったか?
そして、それを聞かなかった事にしてくれる総士ではなかった。
*
「だからっ!なんっ…で、こーなるっ」
試してみればいい。
そう云って総士はボスッと一騎をベッドの上に組み伏せた。
元々、ベッドに半分寝ていた状態ではあまりに不利な状況だった。
「僕をその気に出来るかどうかだろう?」
「だからっ無理だって!」
「やってみないで判らないだろう」
「総士にだって同じ事が云えるだろっ」
「僕は絶対無理だ。それにそれを先に否定したのは一騎だ」
だから、僕を誘ってみてくれ。
制服のYシャツは苦しくないように緩めてあったし、スラックスはベルトを抜いていた。
別にこういうことを見越してた訳ではなく、倒れた一騎の介抱のためだったのだが。
「そ…し……無理」
なんとか努力しようとしたのか、Yシャツに手をかけボタンを外そうとした手がカタカタと震えていた。
普通に体育の授業で着替える時は平気で脱ぐのに、今は無理だ。
総士に見られているだけで息切れする。
鼓動がおかしい。
上から総士にミラレテ、イル。
「……ッ」
ゾクリと背筋が震える。
「……あ…ダ…いゃ…」
スルッ
無意識に足をすり合わせて、喉が反る。そして、そんな自分の行動が信じられず、ヒクッ…と喉を引き攣らせた。
「そぉし―――」
普段は大きな鳶色の瞳がうっすらと涙を掃いて縋るように細められている。
中途半端に脱げかけのYシャツやスラックスの前立てのボタンだけ外れた様とか、もどかしく擦り合わされた形の良い足とか。
「――――反則だろう…」
それこそあんなAVなど関係ない。
ただ一人を誘う姿。
「……も…ダ…メ…」
背筋が反る。
カタカタと震える手を一騎の顔の両脇まで引き上げて、押さえ付けたまま、薄く開いた一騎の唇を啄み、ついで深く、その次はもっと深く。
呼吸すら奪うように接吻ける。
乗り上げるようにして、足の間に足を割り込ませれば、自然と下半身が密着し、互いの高ぶりを如実に感じ取る事が出来る。
舌を絡ませれば、拙く返される事がこんなにも心地良い。
グッと互いの下半身を押し付けあえば、カクカクと揺れていた一騎がギュッと手を握りしめる。
「―――も…ダメ…ッ…」
一騎から接吻けてきたかと思うと、ビクンッと身体が跳ねあがる。
極限まで緊張した筋肉が緩やかに弛緩してゆく。
時折、ヒクン…と跳ねる身体が絶頂を迎えた余韻としてそこにあった。
***
翌朝。
一人で食事をする総士の姿を見つけて、事の次第がぼんやり判っている早瀬、シン、レイ、その他数名の寮生が総士のそばに寄っていった。
「総士、一騎は?」
「部屋で寝ている。今日は休ませる」
えーっ!ナニしたんだよ、総士っ!!
声にならない非難が集中する。
それに気付く様子もなく、食べ終えた食器をトレイごと持ち上げ、総士はみんなを振り返った。
「どうやら、元々、体調が悪かったらしい」
「………えーっ!」
そんな感じ全くなかったじゃん。
明らかにおかしいだろー、と早瀬とシンが口々に云い募ると、後ろできいていた剣司が「あぁ」と手を叩いた。
「そーいや、島にいた時もあったっけ?直前まで組み手やってたのに、突然、倒れたの。あん時は…」
「今日も…というか、今回も39度まで熱が上がった。人騒がせな体質だ」
元々丈夫だからなのか、ある程度まで体力が落ちないと症状が表に出ない。
まして、今回のは―――。
「知恵熱か…?」
ある意味、考えすぎて飽和状態になったのだろう。
人騒がせ具合では相方も似たようなものだろうとレイは思う。
この総士の様子から見て、一連の騒動は丸く収まったと見るべきだが、今後、同じような問題が起こった時、一体どちらを丸め込めば事は早く収まるのか。
課題が増えたような気がするレイだった。
*
くぅ…
食事を終え、寮の二人部屋に帰って来た総士を迎えたのは、穏やかな寝息をたてて寝ている一騎だった。
あの時、弛緩した一騎が、本当にぐったりと沈み込んだ時にはどうしようかと、流石の総士が慌てた。
とりあえず、濡れたものを着替えさせ、証拠隠滅した上で保健医を呼び、ただの風邪だな、とあっさりした診断を貰い、お子様は寝かせとけ、というありがたいお言葉をいただいた。
「一騎…」
眠る額に手をあてる。
「僕には…必要ない理由がお前にだけは判らなくていい」
たった一人だけが愛しい。
それ以外には興味がない。
だから、必要ない。
「いってくる。昼には様子を見に戻るからおとなしく寝ていてくれ」
多分、早瀬とシンもついてくると思うが。
それはそれで問題ないだろうと断定して、総士が立ち上がる。
パタンと閉まった扉の音に緩く眸を開いた一騎は、やがてまた眠りに落ちていった。
穏やかな日常がまた廻りはじめる。
[FIN] 2011/11/15
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